街の仕組みが変わってしまう
2月の初旬。私が好きなホテルの風景ですが、窓から判断できる客室稼働率はおそらく10%以下。今は、さらに下がっていると思います。2019年後半、京都の宿泊業が、新型コロナ感染症(COVID-19)の影響以前で約100件の倒産がありました。ここにきて、さらにの追い打ち。
でも、建築を生業にするものとして、悲観的な状況把握だけではいけないと思います。街の仕組み、働き方、住まい方が変わらなければならない2020年。いろいろ考えを巡らせようと思います。2020.03.10

真の働き方改革2020
会社の仕組みとしての働き方改革だけでは無く、もっと大きな改革、特にテレワークが浸透していくでしょう。いままで、ノミニケーション、膝をつき合わせた営業、全員参加の会議など、変革をしなかった(できなかった)保守派も、せざるを得ない状況です。でも、全員がテレワークに向いているとも思えず、このあたりも多様性を認める会社の仕組みになってくるでしょう。

テレワークという選択肢が浸透した社会になると、建築も変わってきます。私は、今まで少数派だった働き方やその受け皿になる建築が目立ってくると考えています。

○職住一体化住宅
家の中に、一部屋仕事部屋を設け、ネット会議などで、背景に私生活が移らないよう配慮した住宅。
仕事と生活のON-OFFをどう入り切りできるようにするのかがポイントになりそうです。

 

○都市-地方二拠点住宅

都市の利便性を享受したいときの小住宅(賃貸)と、地方の利便性を享受したい住宅の2拠点生活。仕事でどうしても出社しなければならない場合や、都市で多いサービス、飲食、医療、教育(講演会や趣味)、文化(美術館・博物館)を受けたい場合の拠点としてありながら、例えば、親が近い、自然が多い、家賃が安い等のメリットがある、地方にも拠点を持つ住み方。都市も地方もミニマルに住む。タイニーハウスや、都市部の9m2賃貸などがもっと増えてくると思います。

 

○住宅と住宅地のコワーキングスペース

テレワークで一番困惑するのは、子育て世代の男性陣かと思います。家だと、気が散って仕事ができない、家事も家にいるのにできない…「家事」も「仕事」、どちらも破綻するのは目に見えています。でも、出社してはならず、家で作業… ON-OFFの切り替えが無理な人は、近くのコワーキングに行くでしょう。住宅地の中心部、例えば「駅」や「ショッピングセンター」の中にコワーキングがあることで、飲食、サービスが一体として利用できる場所になるでしょう。もしかしたら、コロナ騒動で経営が厳しい、カラオケボックスが、個室レンタルオフィスとして生まれ変わるなどの可能性もあると思います。

○都市部の小オフィス群

多くの人が自宅などで仕事をするとなると、巨大なオフィスは不要になります。人が居なくても、経費(地代、光熱費)が掛かるわけですから、小規模オフィスへの引っ越しが考えられます。支店を増やして、分散することもおこるかもしれません。住宅は変わりませんが、オフィス側が細かくなっていく、地方に分散していくと新しいオフィスの提案ができるかもしれません。

2020.03.15


格差
地方でテレワーク、タイニーハウスで自然の中で生活…都市部の仕事をして、給料を得て、生活費の安い地方で暮らす。経済的にも健康的にも理想的な生活ですが、一番のネックは救急「医療」体制と「教育」体制です。

子供の居る家庭だと、この2つは最大の都市に住むメリットであり、決して欠くことのできない項目です。逆に言うとこの2つを担保できれば、会社側が「テレワーク」を解禁してくれるなら都市に住むメリットはかなり無くなります。

地方にとって通信教育(塾や資格学校)の普及は大きな追い風になるはずです。問題は「医療」遠隔問診、ドクターヘリ、ドクターカー、ドライブスルー診療や調剤、日々の医療データの蓄積、電子カルテの共有などが進めば、この問題もだいぶ緩和するかと思っています。2020.03.16


建築学生サークル♭のみんなへ
2014年から顧問的な関りを持っている建築学生学生サークル♭(ふらっと)の今年の企画が始まりました。

彼らは、首都圏の建築系大学、専門学校約40校から集まったインカレサークルで、「勉強会」や「見学会」「建築旅行」などを通じて、知識を共有、高めあうサークル。特に私が感心しているのは、企画、運営、資金集め、広報など自ら行う「自主性」の部分。社会人に必要な問題解決スキルを身に着けられる場所(サークル)だと思っています。

そんな彼らが今年の題材にしたのが「屋台」!
実は、2年前にも♭の有志メンバーと屋台に取り組んでいたので、そこで考えたことが、何かの役に立つかと思いますので、いくつか書いていこうと思います。

(写真は竣工した屋台 横浜黄金町バザール 最優秀案)

「屋台」「移動小建築」の歴史

例年、実作を作る企画では、♭内のコンペで最優秀案を選びます。今年も8月21日のプレゼンに向けて、「屋台」のアイデアをひねりだす作業しているかと思います。

実は、昔から、「屋台」的な小建築、移動建築の例は多く、日本だと、江戸のソバ屋やすし屋、昭和の紙芝居、お祭りの出店、イギリスにはカクテルトローリーというものがあるそうですし、ケバブ屋などのキッチンカーも屋台の現代版と言えるでしょう。あと、個人的には秀吉の移動茶室(黄金の茶室)が移動小建築の最高峰と思っています。広義には、モンゴルのゲルや、サーカスのテント等も含まれるでしょう。余談ですが、カプセルコーポレーションのホイポイカプセルができたら、「屋台デザイン」の終焉だと感じています(笑)

(写真は、黄金町の屋台 連結すると、15mほどの建築になる)

「屋台」のポイント
何もなかった場所に、瞬時に建築的なプログラムが挿入されるという、特殊な状況は、人々を魅了します。それゆえ、数多くの建築家が、提案をしています。(インターネットで簡単にでてくるから、見て)これらをざっくり、分類すると…。
・トランスフォーマー系
多くの場合、移動を容易にするための工夫がされていて、コンパクトに運べるが、使うときにどれだけ大胆にトランスフォームできるかが、注目される。家具や建具の技術を使うことが多いかな。
・構造系

こちらも理由は一緒で「移動する」ことから、より少ない(軽量な)構造で、効果を得る。膜構造や竹、金属など 素材や構造に注目

・アンチテーゼ(メッセージ)系

存在自体が「環境」などへのメッセージになっているタイプ。移動や構造には合理性はないが、突如現れ、通行人にメッセージを投げかける。素材やデザインの裏に隠れている大きなテーマを投げかける装置。

・コミュニケーション系

人と人が近くになれる装置というのかな。ソフトのデザインをサポートするために、もしくは「きっかけ」を作るような建築。

(写真は、黄金町バザール、最優秀案の1基 これは、構造系か、トランスフォーム系かな?収納する時には厚さ25mm。 屋根の幕がX字フレームのロックになっていて、そのXの角度によって、天板が支えられている 白い紐は組み立て時の安全性からつけています)

「屋台」ってなに?
物事(建築)を考える時に、一度は原点に立ち返ってほしい。

「屋台」ってなんだろう?

辞書で調べると、
 道路・広場などで立ち売りの商売をするための台を設けた、屋根付きの小さな店。台車をつけたり、自動車を改造したりして移動できるものもいう。屋台店。床店 (とこみせ) 。
とありました。他にも祭事の山車などや歌舞伎や能の舞台を指すそうですが、今回は置いておきます。


「商売」「屋根」「移動」確かにそうですが…

もっと深く掘り下げられるはず。ビーチパラソルと折り畳みのテーブルで、商売したら、屋台ではあるけど、建築家の卵である君たちは、もっと違う次元で話をしてほしいな。

 

「屋台」の本質を言葉にしてほしい。
「屋台とは〇〇〇建築である」 本多的には既に答えがあるのだけど、ここが、とても重要で♭だからこその答えを出してほしいと思っています。

 

(写真は、組み立て中。キャンプで使う折り畳みの椅子。あれを巨大化させて屋台にしているのだけど、ありそうでなかったでしょ。)

大きな一歩 自治体との協働
今回、建築学生サークル♭の取り組みとして、非常に重要なのは、地方自治体と組んでいること。

昨年の「空き家改修」の時も、隣のパン屋さんがとの協働になったかと思いますが、今回はさらに、「市」とのつながりが持てたことが、非常に大きい一歩を踏み出せたと思います。

 

きっと、地方創生の数々のプロジェクトがありますが、学生サークルと協働しているプロジェクトは少ないんじゃないかな?研究室と組んでいる例は数多いですけど。

是非、このプロジェクトをきっかけに、日本中の自治体から、オファーが来るように、なってほしいです。

 

私自身、この部分が一番重要であり、さっきの建築の本質にもつながっていることだと思っています。

 

(写真は、最初の状態(収納時)から少しだけ開いたところ この屋台を考えたときに、構造的、トランスフォーマー的に考えることはしましたが、一番重要なところはそこではなくて、「黄金町バザール」というNPOと「訪れたお客さん」の最初の「接点」の部分になる、そんな建築のありかたを考えていました。

商品を置く板の高さや距離、屋根の高さを決める際にも、人と人の距離を意識しています)

進め方について
フラットは最高学年が3年生ですし、例年幹部は忙しくて提案ができない状況があります。1年2年が頑張らないといけないのですけど、すべてを完璧にこなさなくてもいいと思っています。

先ほどの、大きなテーマとなる言葉を出せる人が、中から一人でも出てきてほしい。だけど、言葉から考えず、構造的、トランスフォーム的にかっこいいじゃんって考える人もいていいと思います。

せっかく、多くの学校から集まったのだから、いろいろな人がいて、いろいろな方法を試してほしい。

ただ、どんな時も、スケッチしてほしい。落書きでもいいから、ノートにアイデアを書き続ける。アイデア(言葉も含め)を絵で表現する。人に見せる。意見をもらう。絵でコミュニケーションを取ってほしい。大事な訓練です。
あと、模型を作る。模型で成立しないものは、実現できません。模型でできていてもできないものもあるけどね。

 

(写真は、天板とXフレームの取り合い Xフレームを頼って、天板の位置が決まるのですが、風などで、フレームがゆがむ時には、天板がフレームの抑えになるようにしています。補完しあう関係にしているのがみそ 色彩は、黄金町バザールのカラーである黄色を用い、ロゴが黄色い三角形なので、4隅のフレームの補強に三角形の板を使っています)

 

とにかく、いろいろ書きましたが、8月21日楽しみにしています。


1か月考えて作った案も、15秒で消える ルフタチャレンジ ブログ Vol.1

 

最近、学生と接する機会が多いのですが、案を作る際の「考える」時間、「作図」時間、「プレゼン」の為の時間の時間配分が非常に悪い気がしています。

 

きっと多くの学生は、「考える」6割以上「作図」3割近く。「プレゼン」には、全体作業時間の1割といったところでしょうか?

 

学校の課題であれば、先生へ口頭で説明時間もあるし、設計や作図の基本を覚えるという教育的な側面もあるでしょうから、この時間配分でもいいのかもしれませんが、コンペとなったら、結果だけがすべて!プレゼンボードの中身だけしかないのです。

 

大きなコンペでは、審査員は1時間で100案以上見ることもあるので、1作品およそ15秒ほどで次に進んでいきます。その15秒で作品の概要を審査員に伝える必要があります。プレゼンは、人に伝える手段。ここが悪ければ、世紀の大発明も、消えてしまいます。

 

コンペの場合「考える」「作図」「プレゼン」は、1/3くらいで構成するのが、ベストな割合だと思いますね。

 

私は、ここ5年くらいは、まず「プレゼン」を考えます。「誰に」「何を」伝えるのか?そして、次に「建築(デザイン)」によって「何が」変わるのか?

 

今回、「街を変える一滴のデザイン」を企画しましたが、これは、寺子屋ふくろうプレゼン講座の一環です。アイデアを人に伝えることが苦手な人は是非参加してみてください!


「つかみ」はできているか? ルフタチャレンジ ブログ Vol.2

 

写真は、私が審査員を務めたラアトレ学生実施コンペの一次審査の様子です。審査員は優しいので、どんなにひどいプレゼンボードでもタイトルとコンセプト、パースは見ます。そして、15秒以内に、もっと読むか、次に行くかをジャッジしてしまいます。

 

審査員長原田さんがよく言うのが、「つかみ」お笑い芸人が舞台に出てきてから、最初の発言(ギャグ)。ここで、お客さんの心をつかめるかどうか!コンペも似ています。タイトルとメインパースが切れ味が良いことで、全部読んでもらえるのです。

 

コンペの文章を読むと、多くの案が、この案になった「言い訳」を書いています。経緯ともいえるかな。でも、最初に書くべきは、この案の一番の「売り!」一般的なものとの「差異」、それができることでの「魅力」。

今回、ルフタチャレンジでコンセプトの文字数を制限したのは、言いたいことを1つしか言わせない為です。これは、勉強になりますよ。


図面は言葉 3つのエサで票を釣れ! ルフタチャレンジ ブログ Vol.3

 

コンペでは、最初の15秒で案の一番おいしい部分を餌にします。それに食いついてくれる審査員は4人中1人いればOK 全員に対して高評価を狙わなくていいのです。

 

自分の作品の「タイトルとサブタイトル」「メインパース」「コンセプト」この3つだけで、言いたいことが伝わるかどうか? 自分で何度もチェックすべきです。

 

その際に、目の前にだれか審査員がいるものとして、文章を読まず、声に出して説明をします。説明に使った言葉だけが本当に必要な言葉でしょう。その際に、解説が必要な言葉は使わないほうがベター。勘違いされちゃいますからね。シンプルに、飾らずに!


主催者の意図は読めているか? ルフタチャレンジ ブログ Vol.4

 

きっと、コンペ紹介サイトや、学校の掲示板でコンペの存在を知ることが多でしょう。その際、「課題文章」と「テーマ」がまず、目に飛び込んでくるはずです。

 

この課題文章は、審査員や企画者の思いが凝縮している文章なので、しっかり読むことが絶対条件です。出題者側も、何度も書き直し、誤解がないよう検討し書いているのが普通です。

 

この文章を読むと、提案のきっかけがつかめます。左のフライヤーは、昨年のラアトレ学生実施コンペのものです。第一回から、「新しい住まい方」を求めるとともに、そのアイデアを「かたち」にしっかり落とし込むことを期待し、「すむ+かたち」というタイトルが付いています。そして、そこに「自由が丘」とこの年の実施場所が明記されています。実施であるがゆえに、場所の力も強く影響を受けるでしょう。

 

文章の内容は、自由に考えてほしいという内容です。ほとんど制限がありません。この場合は、自分でテーマを絞りださなければならない。世の中全体の「住む」ことを考え、その中から、自分だけのテーマを絞りだすのです。

 

さて、ルフタチャレンジはどうだったでしょうか?

ルフタチャレンジの出題者の意図は読めたでしょうか?

 

あなたの一滴のデザインは、街の何を変えたのでしょうか?

審査が楽しみです!

審査員について ルフタチャレンジ ブログ Vol.5

 

コンペの内容で気になるのは、提出物の量と期限、そして審査員ではないでしょうか?

企画の仕事をしていて、この審査員選びは非常に気を使います。

ラアトレ学生実施コンペでは、知名度、文章、作品どれも素晴らしい芝浦工業大学の原田教授が真っ先に浮かびました。なによりも人柄が素晴らしいので…

まぁ、これは、主催者、企画者側の話。

 

審査員長が決まれば、次にバランスを考えます。同じような作風の人や、同じ大学の出身者が固まらないように振り分けるのです。選ばれる作品も、議論も多方面からされるほうが、審査も楽しいし、審査される人もフェアに審査される。

 

応募時に気になる審査員ですが、全員に評価されなくてOKです。

全員にほどほど評価されるくらいなら、たった一人でよいので絶賛されたほうがいい。

 

私が応募するときには、審査員の誰か一人を思い浮かべて、手紙を書くイメージで、全体のプレゼン構成を考えます。何を伝えたいのか? 何が一番売りなのか?

伝えたい人に、伝わるように、言葉を選びます。その際に、簡潔に…極端な話、文章なくても伝わるのがベスト!

 

ルフタチャレンジは、わざと文章量を制限しました。これは、寺子屋フクロウプレゼン講座との連携もあり、「伝える技術」の練習です。

 

どうでしょうか?審査員に伝わる手紙を書けたでしょうか?


Luchta Charenge 2017「街を変える一滴のデザイン」
入賞者発表
最優秀賞「草花と駆け抜ける日々を」 菊澤拓馬さん 

優秀賞 「都市森輪浴」 山口薫平さん

    「出る杭は40cm上の景色を見る」五十嵐宇晴さん

    「レンズの車窓から-日常のなかの観察装置の提案」
      坂口大賀さん

    「meet  music」 藤城太一さん

審査員賞

西田賞 「擬態公園」植松里緒さん

飯田賞 「レンズの車窓から-日常のなかの観察装置の提案」
     坂口大賀さん

永山賞 「雨どいを編む」 村岡祐美さん 稲毛田洸太さん」

本多賞 「繕いの美学」  斎藤弦さん

詳しい内容は、facebookで連載します。 


[齋田悟司選手+本間正広選手](1)


バリアレスシティアワード&コンペティションの審査員をお願いしている方の紹介と、インタビューを掲載していきます。

最初は、アテネ・パラリンピック 車いすテニス金メダリストの齋田悟司氏。

そして、バリアレスシティ実行委員でもあり、52歳で現役車いすテニス選手、一級建築士、スポーツカメラマンとしても活躍する本間正広氏
のお二人に、テニスの事、海外遠征のお話等を伺いました。
(聞き手 本多健)

 

■Q 本間さんと齋田選手と会ったのはいつですか?。

 

本間 私がテニスを始めたのは、18年前(1997)ですが、齋田君はテニスを始めて27年ですかね?

当時から車いすテニスの盛んな柏のTTC(吉田記念テニス研修センター)に来たのは 私の方が先で、齋田君は、その2年後くらいに三重からやってきました。

 

■Q 本間さん 齋田選手はどんな選手ですか?。

 

本間 その当時、既にアトランタパラリンピック(1996)の代表選手でもあった齋田君は、車いすテニス界を引っ張ってきたレジェンドといった存在です。

みんなが憧れるような存在なんですけど、それは、テニスが素晴らしいとか、強いというのもあるんだけども、人間的にもすごく優しいし、人に対しての思いやりもある。
そういうところもあるから、人から慕われると思うんですよね。

普通、ランキング上の選手に「練習してもらえませんか?」ってなかなか言えないんですけど、逆に、齋田君の方から、「練習に入れてもらっていいですか~」とか言われると、うれしくもあり、戸惑いもあり…やべ~なみたいな(笑)
ボールを受けても、ちょっと次元の違う球ですしね。

 

本多 確かに、身長186cmあって、車いすに座っていても、かなり高い位置から打ち下ろせますよね。さっき練習を見ていたのですがすごく重そうな球を打っていました。

 

■Q 齋田選手は何歳のころからテニスをはじめたのですか?

 

齋田 14歳(中2)でした。最初は車いすバスケをやっていたのですが、車いすテニスの体験講習会があっったのが最初です。

私は小6まで健常で、野球をやっていて、どっちかっていうと、テニスって女の子のスポーツのイメージがあって…
え?って感じでした。

でも、バスケットチームはその講習をきっかけに、バスケットとテニス両方やるようになったんですが、しばらくしたら、みんながテニスが楽しくなってしまって…(笑)

自分はどっちかっていうとバスケやりたかったんですけど、一人でバスケやるわけにもいかないじゃないですか(笑)
しかたなく、自分もテニスかな~なんてなりましたね。

 

本多 だいぶ流されてますね(笑)でもその結果金メダルまで上り詰めるのですから、すごいですね!

 

■Q 齋田選手が本格的に車いすテニスを始めたのはいつですか?

 

齋田 1996年のアトランタパラリンピックのあと、1999年にTTCに移籍し、三重から柏にやってきました。その前は、大学を出て、地元の市役所に4年間勤めていました。

当時、障害者スポーツでスポンサーがついて、練習に専念できる環境なんて考えられなくって、本格的にテニスをやりたい気持ちと、将来的な不安がいつもあったのですが、OXって車いすの会社が社員として雇ってくれて、テニスをする環境を整えてくれたんですね。で、テニスをするならTTC(吉田記念テニス研修センター)しかないと思っていました。

 

本多 今、TTCは車いすテニスの聖地になっています。
本間さんと同時期にテニスを始めた国枝選手(世界ランキング1位)を始め、眞田選手、藤本選手と上位の日本人選手は皆TTC所属です。きっと練習場や、コーチ等の環境も良いのでしょうけどいい兄貴としての齋田選手がいて、引っ張ってきたんだろうな~と感じました。

 


[齋田悟司選手+本間正広選手](2)
~アクロポリスを車いすで登る!~

 

Q 次は、齋田さんに本間さんの紹介をしていただきます。

 

齋田 本間さんを一言でいうと…良い人です(笑)。
私は43歳なんですけど、40歳を超えてくると、負けが続いたり、疲れがたまってきたり、何かと歳のせいにしてしまうんですけど、本間さんみたいに50歳を超えてまだ競技を続けている人を見ると、すごい刺激になるし、自分も頑張らなくてはいけないなという気になりますね。

 

それから、TTCの初心者のコースのレッスンをしたり、協会の仕事をやってたこともあるし、普及活動にも積極的です。

 

私自身が、普及活動があったからこそ、車椅子テニスに巡り合えたので、やらなければならないのですが…もう少し落ち着いてから(笑)
その点、本間さんは常に全体が見えているのがすごいですね。

 

本多 本間さんは、元々大工で、工事現場で受傷してしまいました。
大工として働けなくなった苦しさは絶対あったと思うのですが、そんなこと微塵も見せないのが、私はすごいところと思っています。

 

また、一級建築士も取得していますし、スポーツカメラマンとしても活躍しています。いったいどれだけ引き出しがあるのか?
まだまだ持ってそうですよね。

 

Q 車いすのスポーツが盛んな国はどこですか?

 

齋田 テニスでいえば、オランダ、イギリスですね。
特にイギリスはウィンブルドンもあって、元々テニスファンも多いのですが、2012年ロンドンオリンピック/パラリンピックがきっかけで、交通や競技環境が整備もされたのも大きいと思います。

 

本多 テニスって錦織選手とかが出る健常者の大会と同じ期間中に車いすテニスも開催されますよね。他のスポーツであるのかな?この感覚がとても素晴らしいですよね。

 

齋田 そうです。他ではあまり聞かないですね。ウィンブルドンも出たことありますけど、時間によっては車いすテニスの試合で満員になるし、テニス好きな人本当に多いですよ。立ち見になったり、入れなかったりもします。

 

本多 ウィンブルドンって芝ですよね?芝で試合できるんですか?車いすが重くて動かなそうだけど…

 

齋田 2週間ある大会期間中で、最後の方が車いすの試合で、
ベースラインのあたりとかは、みんな激しく動くので、芝がなくなっちゃってるんでいいんですけど、車いすテニスは2バウンドまでOKだから、ベースラインの奥の方に飛ぶと、まだ芝がふさふさしてて、そうすると車いすも重くて、ボールもあんまり跳ねないから厄介ですね。

本間 この話は、めったに聞けないよ!私は芝のコートやったことないし、ウィンブルドンに出られる選手は限られてるから!

 

Q 他に記憶に残っている試合はありますか?

 

齋田 やっぱり、金メダルを取った試合かな。でも、その前の準決勝の時、先に相手にマッチポイントを取られてから逆転で勝って、その勢いのまま決勝も戦えたのが大きかったですね。

 

本多 アテネパラリンピックの決勝、準決勝ですね。アテネでは、同じTTCの国枝慎吾選手と共に、金メダルで、そのあとの北京は銅メダルでしたよね。
アテネの町とか、石畳や起伏も多い都市だから移動も大変そうですよね?

 

齋田 幸い、最後まで試合をしていたので、大会期間中は町には出なかったんですけど、最後に一日だけ、観光ができる日があったので、パルテノン神殿に行ったんですよ。

 

本多 あれ?あそこは車じゃいけないし、ずっと階段と坂ですよ?

 

齋田 そうなんです。一般の観光客のルートではなくて、パラリンピック用にあのパルテノン神殿(アクロポリスの丘)の絶壁に一人乗りの仮設のエレベーターが設置されていたんです。しかも、手すりがあるだけで、カゴになって無いし!(笑)

 

本間 写真見せてもらったんですけど、絶壁にレールをアンカーで打ち込んで固定して、ウィンチで台を持ち上げる感じでしたよ。

 

本多 うわ!そこら辺の絶叫マシンよりも怖そうですね。
罰ゲーム的な…(笑)(アクロポリスの丘は70mの崖です!)

でも、歴史的な建造物だらけの都市ですから安易に壊せないし、まぁ、思い出にもなるし…
東京にも、車いすでも必ず見ることのできる日本的なところ作るべきですね!

 

 


[齋田悟司選手+本間正広選手](3)
~車いすであることを忘れさせてくれる国~

 

 

本多 南アフリカはどうですか?国別対抗戦(団体戦)で優勝していますよね?

 

齋田 参加選手の7割くらいがお腹壊します(笑)

 

本間 アメリカの女子チームは試合が出来なくて帰っちゃうし(笑)

 

本多 なるほど!胃腸が強いことも優勝するには必要条件ですね!(笑)

 

本間 街中に泊まって、試合は郊外まで移動するんですけど。
治安的にホテルから夜は出てはいけないし…町はよくわかりません。

 

齋田 今年は停電が多くて…。計画停電だっていうんですけど、全然計画性なくって(笑)、12階に泊まっていたので、停電するとエレベーターが動かないので、出られないし、特に初日は食事をとって無かったので、いつ動くかわからない中、空腹と戦っていました。
ネットの情報だと、石炭で電気を発電していて、石炭が湿ると発電量が落ちて停電するらしくって…ホントかな~って(笑)

 

本多 毎年のように大会がありますよね?南アフリカは車いすテニスが盛んなのですか?

 

本間 何年か前から力を入れていますね。でも、バリアを解消するのは人力で、送迎バスはスロープの代わりに力強い運転手がついていました(笑)
車いすごと持ち上げて乗るんですけど、毎朝、毎晩だからけっこう大変でしたね。

 

齋田 アメリカだと全てが普通にできるから何にも問題なかったよね。

 

本多 何が違うのですか?

 

本間 日本の電車はすごく手厚くって、改札通るときに「どちらまで行かれるんですか?
」って聞かれて、ホームまで案内されて、降りる駅でも駅員が待っていてくれてすごくありがたいのだけど、ちょっと自由度もなくって、気が変わって他の駅で降りるとかできないし、アメリカだと普通に誰もついてこなくても乗れるんだよね。

 

本多 もし、海外の選手が日本の電車に乗ったら手厚いサービスはどう映るのでしょうかね?

 

齋田 う~ん 日本の電車は複雑でしょ。例えば常磐線に乗ったのに、途中から千代田線になってしまうし(笑)、ホント難しいから、旅行者にはありがたいサービスなんじゃないかな。
「旅行者に優しい」企業の取り組みですよ。きっと。

アメリカは、何もかも自然で、個人のレストランでも普通に車いすでトイレに行けるし、男子トイレの個室の1つは必ず大きいブースになっていて、別に車いす用です!って表示もなくても、どこのトイレに入っても問題なく用が足せるんですよね。

 

本間 本屋で上を見ていると、
「大丈夫か~ そか、じゃあ」みたいな。
軽く声を掛けてくれるし、自分が車いすであることを忘れて生活ができるんですよ。
レストランの前で「このお店大丈夫かな~」なんて思うことはないしね。

 

齋田 車いす用の駐車場は、必ずあいているよね。日本で雨だとだいたい満車で、どう見ても健常の人が置いている場合があるけど、アメリカは罰金がものすごく高いらしく、駐車場も困ったことないですね。

 

本多 行政側も徹底しているし、個人経営でも当たり前のようにスペースを確保するというのができているんですね。成熟していますね。まぁ土地に余裕もあるのでしょうけど…
なんかアメリカのイメージと違いますね。

 

齋田 やっぱり進んでいるんだと思います。意識も人の感覚も。車の運転も、けっこう譲り合いがあるんですよね。アメリカのイメージって違うじゃないですか。でも、どの街も譲り合っているんです。心に余裕があるんじゃないかな?

 

本多 なるほど、確かに、移民も、旅行者も受け入れてきた国ですからね。日本では、いたるところで、インバウンド、インバウンドって、外国人旅行者を2000万人に増やそう!って号令がかかっているんだけど、今の1400万人から2000万人になったらびっくりするくらい外国人が町を歩くことになりますよ。その時に意識を変えなければならばいのは、住んでいて、働いてる我々なんですよね。きっと。

来ていただいた外国の車いすユーザーが、日本にきたら、
「自分が車いすに乗っていることを忘れさせてくれた!」
って言ってくれる都市にしたいですね!


[齋田悟司選手+本間正広選手](4)
~日本のホテル事情~

 

Q 来年5月に東京でチームカップ(国別対抗戦)がありますね?

 

齋田 海外の選手はホント楽しみにしていますよ。

 

本間「東京は初めてなんだよ!って」みんな言うし、
マレーシアの選手は、ディズニーランドに連れて行ってほしいって言われてます(笑)

 

 

齋田 原宿に行きたい!って言ってる人もいますよ。

 

本多 おー。なるほど。まぁあれだけ特化した通りも珍しいでしょうね。私も女子中学生とクレープ屋の数に驚きましたし(笑)

 

本間 人ごみは苦手ですね。どうしても車いす分のスペースが必要じゃないですか?そうすると、周りに「悪いな~」って思うんですよ。だったら、好んで行かなくてもって思うんですよね。

 

本多 車いすであることを意識させちゃってますね~。ところで、東京初開催とのことですが、日本では国際試合は少ないのですか?

 

本間 日本でも大きな大会があって来るんですけど、福岡県の飯塚ってところなんですよ。我々も最初どこ?って思うくらいの場所です。

 

齋田 元々炭鉱が多い地域で、怪我が多かったらしく、脊損センターっていう病院があるんですよね。そういう関係もあるのかな?送迎バスもあるし、移動には支障がないですね。

 

本多 観光に海外の選手は出られるんですか?

 

本間 大会関係者が送迎バスを出して、大宰府へのツアーとかを無料でやっています。みんな参加していましたよ。

 

本多 なるほど。東京だとどうなるんですかね。2020年パラリンピックの実験的な要素が強い大会というのもうなずけます。

 

Q 海外でのホテル事情はどうですか?

 

本間 台湾は今週行きますけど、ホテルは街中にあります。台北市の地下鉄がすぐ目の前で便利だし、バリアフリー化が急速に進んでいて、この5年間で、整備されてきましたね。表通りは移動に問題ないですね。

 

本多 ホテルは、バリアフリールームではなく、普通の部屋ですよね。

 

本間 そうですね。日本だとユニットバスの配管をスラブ上で回すので、段差ができるじゃないですか?海外だと在来で、おそらくスラブ下に配管を持っていくので、段差がない部屋が多いのが良いですね。扉も広いし。日本はリゾートホテルでないかぎり、扉も狭いし、段差もあるし、使いにくいです。

 

齋田 自分は立てるからまだ良いけど、立てない人は大変ですよ。

 

本多 そうか~。ロンドンパラリンピックでは、選手が6500名。その競技にあこがれる、子供や若い選手なども合わせたら、10000人を超える人が東京に泊まるわけですよね。そして、あのユニットバスの段差と、東京のホテルの狭さに直面するわけだ。宿泊業界の打開策は、たくさん応募あるとうれしいですね。
それと、ホテルを運営する企業は今どんなこと考えてるのかな?取り組みも応募してほしいですね。


[齋田悟司選手+本間正広選手](5)
~応募者へ そしてリオパラリンピックへの挑戦~

 

Q バリアレスシティの活動を聞いてどう思いましたか?

 

齋田 今まで、こういった活動を聞いたことなくて、選手としても、車いす利用者としても、こうなったらいいなとか考えるんですけど、誰に伝えたら変わるのかわからなかったですね。

 

こうやってプロが考えてくれることはとても良いことだと思いますし、これが広がって、今まで難しかったことができるようになるとうれしいですね。

 

 

 

審査員という立場は大丈夫かな?って思いますけど、健常の時には絶対気が付かないことが、こうして車いすになると気が付く事があるし、お役に立てればなとおもいます。

 

本多 建築を含めたデザインの世界は、その業界内の人が、業界の人に審査されて評価されていく世界なんですけど、このアワードもコンペも齋田さんや本間さんの力が必要なんですよ。業界を越えた幅広い視点から審査したいと思うし、今後の社会に必要なことなんじゃないかと思っています。

 

齋田 確かに、これから高齢化社会に入って、すべてのひとが暮らしやすいまちづくりになってほしいし、ならなきゃいけないんだろうな。

 

本多 そうですね。齋田さんや本間さんの様に、アクティブな方がいらっしゃる一方で、まだ、あまり外に出られない方もいらっしゃると思います。
きっと世の中のバリアフリー化のベースアップには行政の貢献が絶対必要なんですけど、今日本は、次のステップに来ていて、本間さんや齋田さんの言うアメリカの様な障がいがあっても、普通に生活でき、旅行できる自然な住民のバックアップとか、街になるべきですよね。これが2020年までに少しでも進んだらいいな。

 

齋田 大がかりなことをやれば、どうにでもなるじゃないですか?でも、そうするとお金とスペースが必要になってくるんだけど、でも、どちらもないけど、こうすれば同じような効果がありますよってアイデアがあると良いですよね。

 

本多 良いですね~。目標が5年後ですから、夢物語よりは、問題解決型の提案が良いですね!

 

Q 最後に、今のテニスでの目標は有りますか?

 

齋田 来年の5月中旬にリオオリンピックの選考があるので、それは、1年間のポイントで決まるので、今はそれを目標に試合に臨んでいます。

 

本多 期待してます!次は大阪オープンですね。頑張ってください!本間さん、齋田さんありがとうございました。

 

バリアレスシティアワード&コンペティションの審査員をお願いしている齋田選手と本間選手にお話を伺いました。

11月16日締切です。審査は12月の予定をしております。今後ともよろしくお願いします。

 

Barrierless City Award & Competition 2015

http://www.hoop2015.com/

 

~旅行者に優しいデザイン~

2020年
オリンピック/パラリンピックが
東京で開催され、日本は世界の注目を浴びます。
選手はもちろん、多くの外国人旅行者が
大きな期待を持って日本を訪れるでしょう。


この時、世界は日本の街をどう評価するでしょうか?

 

「旅行者に優しいデザイン」
 

建築やデザインに関わる私たちに、今、世界から投げかけられた命題です

 

Barrierless City Award & Competition 2015では、
テーマに沿った2つの部門を設け、
世界につながる「バリアレスシティ」を目指していきます。

 

「実作部門」: 外国人旅行者や、車椅子利用者など、
様々な旅行者に配慮された「デザイン」や「取組」 を募集します。

 

「提案部門」: 東京のまちや観光地などを想定した、   
バリアレスシティにつながる「アイデア」を募集します。

 


[ディック・オランゴ/建築家](1)
~ケニアと日本の架け橋~


今回、バリアレスシティの審査員をお願いしている、ディック・オランゴさんは、ケニアの高校卒業後日本に留学。首都大学東京を卒業後、建築士を取得し設計事務所の勤務を経て独立しました。現在は、日本とケニアに設計事務所を持つ建築家として活躍されています。

一番最初に知り合ったのは、2007年。私(本多)が経営しているFLAT4というシェアオフィスの勉強会で講演を頼みました。
その時、覚えているのは、日本は、近代化の中で、「和」という概念が脈々と続いており、時代に合わせ折衷し、共存している。しかし、ケニアは、イギリスの植民地になった際に、急速に英国化、近代化が進み、ケニア独自のスタイルが失われてしまった。そうした、近代化と伝統的な建築スタイルや風土との両立を目指しているというのです。


今回のバリアレスシティでも、日本と外国を知る旅行者、そして建築家の目線で、審査していただきますし、今回のインタビューでそのあたりを聞いていこうと思います。


Q ディックさんは最近どんな仕事をしていますか?


ディック 集合住宅の設計をケニアでしています。ケニアにビジネスで来る日本企業の従業員が宿泊する寮で、ジムやカフェ、お風呂がついています。
ようやく、日本でいう、確認申請が降りたので、これから着工です。


Q 日本企業はケニアに進出していますか?


ディック 最近進出していますが、アジアに比べたら、日本の投資額は比較にならないくらい少ないと思います。
2016年、TICAD(Tokyo International Conference on African Development/アフリカ開発会議)がケニア開催で、首脳会議もあります。日本の企業が進出しやすくなると思います。


本多 なるほど、今、アフリカで安定しているナイロビを起点に、アフリカに商品を供給することや、工場を建設し、日本が輸入するようなことが始まったという事ですね。


ディック そうです、これからは、日本の企業がアフリカに行くに当たっては、「建築」、「不動産」、「現地従業員への教育」が必要になります。そんな手助けをしています。特に、建築と不動産は、既にネットワークができています。


本多 おお!頼もしい。昨年私はカンボジアの案件に少し関わりましたけど、日本企業の進出には、語学だけでなく、建築・不動産の知識や法規、国民性の理解などが不可欠ですからね。


Q ナイロビは建築ラッシュですか?


ディック そう言えます。ただ、富裕層は良いのですが、ミドルクラスより下が問題。
特に住宅が足りていません。値段が高いし、金利も17%なので、なかなか住宅を手に入れられません。今は、賃貸住宅がほとんどだけど、持ち家を持ちたがっているし、政府も住宅を供給したいので、開発をしていますが、規模と金額が合わないのでうまく行っていません。


本多 なるほど、まだまだ課題が多いですね。私たち世代の日本の建築家は、量の時代は経験していないのでイメージが難しいですね。


ディック そうなんです。なので、日本の公団住宅の歴史は良い例なので、参考にしています。


Q ケニアの観光事情は?バリアフリーについては?


ディック アフリカの中では地理的に有利だし、英語圏であるのが有利です。今まで独走していたエジプトや北アフリカが停滞しているので、今は、南アフリカとケニアですね。
でも、全体的には観光客はやや減っています。

バリアフリー化に関しては、まだ質より量が足りてない状態なので、意識が低いですね。


本多 南アフリカは障がい者スポーツに力をいれているみたいですよ。
ワールドカップを成功させたので、次はオリンピックを誘致したいんじゃないかな?そのためにパラリンピックの準備も兼ねて積極的に大会を開催して訪れる人を増やしている気がする。
ケニアも圧倒的な大自然という観光資源があるのだから、ディックが働きかけて、日本から行きやすい国になってほしいですね。


[ディック・オランゴ/建築家](2)
~外国人旅行者が日本で体験したいこと~


Q 旅行者目線で日本の良いところ、悪いところは?


悪いところは、10年前とか、英語の表示が少なかった。あったとしても、日本語と英語で書いてある内容が違う気がする表記が多いことです。もう少し、言い方変えた方が良いのにという表示があって英語圏の大都市の表記(サイン)に比べ、分かりにくい気がします。

特に、道路標識は分かりにくい。目的の近くにつくと、そこからわからないし、ある程度日本の地名が分からないと道を選べない。

その点、地下鉄の駅番号、路線の色はわかりやすい。最近のガイドブックにも全部駅記号があってあれは使いやすいですね


本多 なるほど、最近地図関係で変わったのはメトロの地図くらいだから、地図の世界もまだまだ改善の余地ありそうですね。


ディック あと、日本の良いところは、日本人はとても優しい。日本の駅だと良く声を掛けられます。日本語で返すと、たいてい雑談になって楽しいし。たいていおばさんですけど(笑)
日本の広告で、「おもてなし」って海外に向けて発信いるでしょ。でも、外国人は、だいたいわかっていて、日本人は親切で、勤勉で、「おもてなし」がとてもいい!というイメージはもう既にある。
じゃあどこ行けば何ができるの?ってことを知りたいですね。
宣伝するならもっと具体的した方が良いと思うけど。

本多 ディックなら友達をどこに連れて行く?


ディック 浅草、上野 新宿 渋谷… 
あっ! 池袋…飛んだね…(笑)


本多 危ないから行かなくていいよ(笑)


ディック 日本らしいところを見せたい。今の日本。超高層とか、繁華街とか、人が多いところ。そのあと京都や奈良の様な伝統のある日本。その両方があるところが日本なので。
あとは、日本の祭りを見せたい。
日本人は、文化を忘れているって言うけど、ちゃんと持っていて、近代化の中で、デュアリズムがある状態を見せたい。


本多 ケニアはどう?イメージだとマサイになっちゃうけど…。きっと部族ごとに伝統的な踊りや文化はあるんじゃないかな?


ディック お祭りは、民族ごとにあって、今、政府が推奨していますが、日本は地域ごとに文化が伝わっているけど、ケニアは、大きな会場で、○○民族のお祭りやるから集まって~って感じで集客する。地域のコミュニティがあるわけではない。
その点、日本のお祭りは面白い。
先日、お祭りを見に行ったら、はっぴを着せられて、「見てないで担がなきゃ!」って。担ぎ手として参加できて最高だったし、地域の人がみんな熱くて!凄い。


本多 うちの事務所のある茅場町のお祭りは、オフィス街だから、住んでいる人少ないのに、昔の立派なお神輿があって、少ない人数で大きな神輿を担ぐから、重荷に耐える苦行をしている様なお神輿なんだよね。

地域によっては氏子が減少して担ぎ手が減ってしまってるし、寄付も少なくなって維持が大変なところもあるけど、そのおかげで、外国人で、その場に居合わせただけでも担がせてくれたりするから、旅行者としては楽しい体験になりますね。あれは良い。もっと日本文化を「経験」「体験」する場所が増えるべきだと思うんです。

最近、子供連れの外国人旅行者も増えてきたけど、秋葉原も、銀座も、子供は楽しくないでしょ。
ディズニーランドに行ってない日はつまらないんだろうな。そんな子供たちにもお祭りなら、言葉が分からなくても楽しい経験になると思うからすごくいいよね。

日本は安全だから、どこの国よりも子供を連れての旅行は推奨できるし、もっと子供が楽しめる東京になったら面白いのに。言語を越えて、日本文化を体験できる遊具なんてあったら、最高だよね。


[ディック・オランゴ/建築家](3)
~いままでなぜ無かったのか?~


Q ディックさんはなぜ留学先として日本を選んだの?


ディック 高校を卒業して、英語圏に留学する友人は多かったけど、そうじゃない文化に触れたかったのが理由。

当時は日本の情報無かったね。日本製品は有名だけど、どういう場所かはわからなかった。
侍とか忍者のイメージは無かったけど(笑)

あと、お酒飲んでこんなに弾ける日本人は意外だったし、大学で勉強しない日本の学生にびっくりした。とても頭良さそうなイメージがあったのに、最後だけすごく頑張るのは意外。


本多 それは…突き刺さりますね…勉強せず、アルバイトして、そのお金でバックパッカーしていましたから… 
え~っと話を変えて(笑)…




Q 設計事務所を始めた今、気になることあります?


ディック 東京駅かな。外国人観光客が増えた印象があって、一見インターナショナルになっているんだけど、作るときに外国人旅行者が増えることは考えられて設計していないんじゃないかな?

地図見ている人が増えて、リュックが大きくて、まちの風景が変わったし、人の流れも変わった。でも、施設は変わってない気がする。ただ、インテリアが綺麗になっただけの様な気がします。

例えば、東京駅は空港と同じような感覚で設計したら新しいものができるんじゃないかな?

アブダビの空港は良かったですね。平面にしてもホントに単純で飛行機降りてすぐにお店のところに出られるし、空港の上にはホテルだったり、ラウンジだったり、分かりやすい。


本多 日本は土地が狭いし地価が高いからどうしても積層して移動が複雑になってしまうよね。


ディック 渋谷駅も、だいぶ改善されたけど、でもやっぱり難しい。
成田空港も、改修を重ねたせいか、すごく複雑になった気がする。飛行機から降りて、前の人がいなかったら荷物受け取るところまで行けないんじゃないかな?それぐらい難しいよね。(笑)


本多 色々なところに改善の余地がありますね。


Q バリアレスシティのアワードを聞いてどう思いましたか?


ディック なんで今までこんなアワードが無かったのかな?

バリアフリーとか、ユニバーサルデザインとか考えている人はいるんだけど、もっともっと推進してほしいと思っている人は多いはず。


本多 バリアフリーのコンペは、いままでもあって、住宅の中とか、施設とか、ユニバーサルデザインの賞とか。あるんだけど、どれも、日本人向けというか生活者向けだったのが特徴かな。

今まで、外国人旅行者自体に接しない人がほとんどだったからかもしれないけど、1400万って数の外国人が日本の土を踏んでいるわけで、そろそろ、旅行者を受け入れるって事を多くの人が考えなきゃならない時期なんだろうな。

受け入れるってことを真剣に考えると、言語や習慣、文化の違いだけでなく、障がいの有無や、年齢なども視野に入れる必要があるから、日常から意識しておく必要がありますね。


ディック 自分の設計も、バリアフリーの制度の中での基準は当然満たしているんだけど、それ以上はしてこなかった。


本多 多分、身近に車いすの方や、視覚障害の方などがいないと、想像力が欠けると言うか、バリアフリー法の中の想定以上の想像をしなくなってしまうからかな?
このバリアレスシティをきっかけに、日本中の設計者が、齋田さんや本間さんのをイメージして設計してくれたら、少しは変わるとおもうんだけど…。


Q提案部門についてはどうですか?


ディック このコンペは、建築のコンペにしなくていいと思っていて、今までの建築コンペが、建築の要素を表現して評価されるんだけど、空間とか、構造とか、材料とか…


本多 そう、今までの建築コンペに出していた人は違和感あるかもね。
短期の目標が2020年だから、今ある不安要素や、困っていることを分析し、その改善策を提示することを求めているし、もしかしたら形にならない、コミュニケーションのアイデアなんかもあると思っています。そして、アイデアコンペでありながら、ビジネスにつながる可能性を秘めているとおもうんですよ。


ディック このコンペ、審査員は建築以外の人が全てでも良いんじゃないの?


本多 そうですね。私が失業しちゃうけど…(笑)
審査員は、今回は、建築とサイングラフィック、インテリア、そして車椅子ユーザーだけど、今後はもっと幅広い分野の人に入ってもらいたいとも思っています。

今、ネットで見ているだけで、旅行者に優しそうなプロダクトあるし、企業の活動も面白い。ボランティア活動も良いモノ多そうですし、なるべく受け止められる体制にはしていきたいです。

ディックさん今日はありがとうございました!


Barrierless City Award & Competition 2015

http://www.hoop2015.com/


~旅行者に優しいデザイン~

2020年
オリンピック/パラリンピックが
東京で開催され、日本は世界の注目を浴びます。
選手はもちろん、多くの外国人旅行者が
大きな期待を持って日本を訪れるでしょう。


この時、世界は日本の街をどう評価するでしょうか?

 

「旅行者に優しいデザイン」
 

建築やデザインに関わる私たちに、今、世界から投げかけられた命題です

 

Barrierless City Award & Competition 2015では、
テーマに沿った2つの部門を設け、
世界につながる「バリアレスシティ」を目指していきます。

 

「実作部門」: 外国人旅行者や、車椅子利用者など、
様々な旅行者に配慮された「デザイン」や「取組」 を募集します。

 

「提案部門」: 東京のまちや観光地などを想定した、   
バリアレスシティにつながる「アイデア」を募集します。



地方切り

もう一つ、私の周りで最近よく耳にするのは、「地方切り」という言葉。

社会的には、離島や山間部の集落のインフラ投資(修繕)にお金が回らず、都市部への移住を促しています。が、それは昔から耳にする言葉。「地方切り捨て」なんて言葉がありました。


今は、そんなに限界集落ではない、ちょっと地方の駅前など、大手スーパーや飲食店舗、物販店が撤退しているのが、目につきます。


ビルとしては新しく、まだ20年そこそこだからもったいないと、それに、今、こんな大きな建物をつくったら、何億も掛かるから、壊すのももったいない。何とか再生を考えてほしい。という趣旨です。


ただ、この20年というのが厄介で、ちょうど設備的全面改修、外装に関しても改修時期に差し掛かり、大きな出費を伴うのです。
20年で建築費は改修できているので、メンテナンスや維持費にお金が掛かるなら売ってしまおうというのが、民間の考え。


地域としては、大型店舗で中心部の商店街が壊滅的な中、その大型店舗が撤退するのですから、死活問題なわけです。


多くは、駅前の大型店舗。東京の感覚だと、駅前こそ一等地なんですが、何箇所か駅前のビルを視察しましたが、どうも事情は違うようです。

大人の全員、一家に成人が4人いたら、4台車があるような地域もあります。駅を使うのは免許の取れない高校生だけ。

ある、地方の駅前デパート(現在は自治体の所有とのこと)では、高校生の自習室が巨大な空きテナントの空間に用意されていました。

確かに、活用されていますが、高校生がお金を落とすことはなく、車で迎えに来る母親らしき人たちは、駅前のロータリーに車を止め、子供を電話で呼び出している様子でした。


無駄にデカい建築物ですから、エアコンだけでも月に百何十万という単位での出費でしょう。人気が少ないから、死角も多くちょっと怖いイメージさえありました。

また、多くのデパートにはほとんど窓がありません。 中心にエスカレーターがあり、周囲は、エスカレーター側が正面になるので、窓側はバックヤードになるからです。このデパートの一般的な形態も、暗く怖さを感じる要因で、回避するために、大空間に大量の照明を用意することになります。ホント無駄。


今、地方創生資金がばらまかれようとしています。この機会に、既に賞味期限の切れた大型店舗は、別の用途に切り替えるべきです。一番安価なのは、今の形態を維持すること。でも、小銭を拾おうとして大金を落とすようなことのない、大きな手術が必要だと考えています。






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地方創生の解決策

最近、株式会社HOOPに持ち込まれる案件の一つに、地方の活性化というものがあります。

今どきの言葉を使えば、「地方創生」って言葉ですね。

2014年に準備室が発足した、「まち、ひと、しごと創生本部」ここから、「地方創生」という言葉につながり、今は、各自治体に計画を立てる様促しているわけです。

簡単に言うと、各地方で、その土地の特徴を生かして、持続可能なことを考えて!というもの。


一昔前だと、政府が補助金を出す施設の大きさや設備が提示され、安く整備できるから地方に同じものが大量にできたという時代でしたから、少し前進している気がします。

 

ただ、各自考えて!って言葉。私にはとても良い言葉なんですが、当事者である役所に勤める中堅どころには厳しい言葉に感じなのだろうと想像しています。

なにしろ、考えて失敗したら、その後の役所での立場が肩身狭いものになってしまう可能性もありますよね。

それに、今まで考えてこなかった人には、突然言われても困ってしまうでしょう。仕方なく東京のコンサルタントに話が持ち込まれるという構図になっているようです。

 

実は、こういう仕事は東京のコンサルタントよりも建築家が仕事として最適であるというのが私の持論です。

というのも、多くのコンサルタントの担当者は、前例を探し、その地方に合いそうな成功例をプレゼンする。

建築家は、様々な事例を調べ、他でやっていないものを提案する。(選ぶ側は、成功例の無いものを選ぶので、怖いでですけどね)

 

建築家は、その職業上、オリジナリティを追及します。なので、他人がやっていると、少なくとも同じモノのは提案しない。これはすごい!と思ったものでも、改善し、新しいものへと昇華してから提案するはずです。
もちろん、全員とは言ませんが、建築学科の時から、物真似は評価されない土壌で育ち、独立している建築家は、新しいものを始めるのにぴったりの職業です。

 

地方創生には、「新しさ」、「唯一」ということが必ず必要になります。絶対!

成功例のコピーでは、話題性もなく、成功者がライバルになってしまう。

さらに成功例のコピーが増えてくると、成功した地域もろとも墜落し、多くの補助金をどぶに捨てることにもなるのは簡単に理解できるはずですけど。

 

私の理想は、全国の地方自治体数は1741。合併前では、3232自治体あったから、およそ、3000の地域に、担当若手建築家がそれぞれ任期3年でアドバイザーとして就任するという事を考えています。

3年に一度、その成果を各地域の大御所建築家や市民の前でプレゼンし、下位1/3は解任。新しい若手建築家を再選するという仕組みはどうでしょう。
その際に、建築家の出身地と同じ地域からは選んでいけないルールとします。出身地域から選ぶと人気投票になってしまうし、へんな派閥に巻き込まれてしまう可能性があるから。国が年収500万くらいを保証して、3年間地方で事務所を開き、地方創生課と一緒に仕事をすれば、けっこうおもしろい地方が誕生すると思うのだがどうだろうか?

 

 

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学生の力~学生コンペの目指すところ~

株式会社HOOPで企画した、第二回ラアトレ学生実施コンペの二次審査が終わった。

最優秀の案は、日本大学の大学院生で、女性2人のコンビであった。

 

このコンペは、マンションディベロッパーである株式会社ラアトレが保有する賃貸物件を、学生の社会勉強の為に提供し、学生からデザインを集め、最優秀の案を実際に作り出すイベントである。

 

募集を開始したのは、2015年4月のはじめ。

応募締切が、2015年6月22日であるから、2か月半学生には考える時間があったわけだが、実際は、授業もあるだろうし、サークルや部活、友人と遊ぶ時間もある。

 

応募した多くは、大学4年生~大学院2年であり、卒業設計や課題、修士論文などを抱える時期であることは間違いなく、その大きな労力に感謝と敬意を持っている。

 

このコンペを間近で見た感想は、学生のプレゼン能力がかなり高いという印象である。そして、コンペの趣旨をかなり理解している案が残ったように思える。


一次審査は、プレゼンボードA3を2枚で表現し、154案の中から7案が選出された。その時点で、かなり優秀な学生であることは間違いないが、二次審査で5分与えられ、「パワーポイント」と「言葉」、そして「模型」で説明をするのであるが、これが非常に分かりやすかった。

 

建築界の言語は昔から一般の人向けで無く、業界内部で通じる言葉が多かった。何か大きな特殊なサークルの様な感じで、中にいないと話が通じない。

逆に、このコンペの主催者は、マンションディベロッパーであり、いわゆる不動産屋である。ここでも言語は普通であるが、思考方法が独特(建築とは違う)で、色々な説明のあとに、「で?いくら儲かるの?」「何年で元がとれるの?」といった、お金が中心の世界があった。

 

不動産業界が、投資家で支えられたビジネスであり、建築界は、都市の在り方、豊かなライフスタイル、風景、最新技術から伝統的な技法等…さまざまな文化を背負っているという土壌の違いは大きく、近くて遠い世界と言えよう。

こうした中、学生は、建築業界でしか使わない様な言葉を使わず、豊かなライフスタイル、時間や季節による変化など案の魅力を語っていた。
最優秀の案も、不動産では、方位しか気にされない窓の魅力を語り、最優秀に輝いた。

 

このコンペの趣旨は、ラアトレという企業の社会貢献活動であるが、裏のテーマは、不動産業界に対して、お金以外の価値基準があるんだよ!って学ぶ機会を作ることだと思っている。

完全にお金の世界を知ってしまった設計者では出ない、価値を提供することが建築学生側の求められたことであり、知らないから出る、新しい魅力の創造を提案してもらったと思う。

 

HOOPの企画するコンペ(イベント)では、こうした、両者が「持っていないもの」を提供し合うことが一番大切なことと考えている。

 

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